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2009年4月24日 (金)

9)、老化現象を如何に直すか?

病は気から

『 いい歳をして・・、と自分をいじめるのは止めにしよう。自分の病気は自分で治すんだ。ヨーロッパに行くんだ。自転車縦断にトライしつつ考えよう。』と、宏は決意した。 某電機会社の課長さんで45歳の宏は、この2~3年、視力の衰えが激しくて、いささか落ち込んでいた。おまけに最近、胃のあたりに痛みを感じて、気になっている。 これまで医者嫌いで通してきたが、友人にそそのかされるようにして近くの総合病院に出かけた。

視力の衰えは老化現象であった。「ビタミンEが良いそうですが・・」 「そういう見解もあります。しかし、歳をとると皆こうなるのです。点眼薬と総合ビタミン剤を出しておきましょう。薬が無くなった頃に、また来てください。」

覚悟はしていても、そうはっきり老化と宣告され「 治る見込み無し 」と言われたショックには、隠しきれないものがある。 『 検査ばかりして結局何んにも出来ず、挙句の果てには副作用で病人を苦しめる。現代の悪魔か吸血鬼か、医者という者は!』と、腹立ちまぎれに思った。

胃の痛みは内診でははっきりしない。「胃カメラで視てみましょう。その方がスッキリしますよ」 「小さい頃にゴム管を飲まされて、今でも忘れられないくらいに苦しかったのですが・・・」 「昔と違って管が細くなり、飲みやすくなっていますし、麻酔も使います。立体カラー映像で貴方も自分の胃の中を見ることが出来るのですよ。面白いですよ」。 「 ・・・ 」 「一週間後にもう一度来て下さい。前の日からの24時間は何も食べないで下さい」。

胃カメラ

次の週、あぶら汗と涙を流しながら、宏は胃カメラを飲んだ。 カメラ技師がグリグリとしきりに機械を操作している。 「ちょっとこちらを見て下さい」。 と言われても喉に管が差し込んであって身動きが出来ない。 目には涙があふれ、メガネも外されているので、見れたものではない。 それでも赤い粘膜の穴が、恐竜の食道の如くに見えた。 「ここを見て下さい。白く腫れ上がっているでしょう。これですよ」。 なるほど少し白くなって、穴が小さくなっている。十二指腸潰瘍の入り口だそうだ。 証拠写真を数枚撮られた。

「どうでした?面白かったでしょう」 「(なにが面白いものか)痛かった」。 「十二指腸潰瘍ですよ。ほら、ここにこんなに大きな潰瘍があります。進行は今のところ止まっていますが、これが進むと手術しなければなりません。しばらく様子を見てみましょう。」 「もうコリゴリですよ」。 「ハハハ、薬を出しておきます。必ず飲んで下さいよ」。

宏は内心、『 癌ではなかった。原因は分かっている。注射や薬では治療にはならない。』と思っており、それが顔の表情に現れているらしい。 「怪しいな。本当に飲んで下さいよ。飲まないと治りませんよ」。 担当の若い医者は笑いながらも、しつこく宏をさとしている。

朝昼晩と毎度の食後、山のような薬の束を手にする度に、宏は閉口する。 随分としつこく説教されて、しかたなく指定された量の半分を申し訳程度に飲んでいる。それでもおしっこは真っ黄色だ。 結局薬は3分の1も飲まない内に止めてしまった。

決意

混んだ通勤電車の中、思いついたように宏は手帳に書き始めた。

3月16日  『 僕の前に道はない 僕の後ろに道は出来る ああ、自然よ 父よ 僕を一人立ちにさせた広大な父よ 僕から目を離さないで守ることをせよ 常に父の気魄を僕に満たせよ この遠い道程のため この遠い道程のため 』 

中学一年生の時に衝撃を持って接し、覚えこんでしまったこの高村光太郎の詩のそばに、宏はそっと書き添えた。 『 自分自身の道を歩む、命続く限り。 命ある限り挑戦し続ける 』

『 学生の時は現地(北海道)で手に入れた。 今回は色々と悩んだ末に、飛行機で運んで行くことにした。これが果たして良かったかどうかは結果次第だ。 安い航空券を探している。 出発地点をローマとすべきかアムステルダムとするか? コペンハーゲンはちょっと遠すぎてこの歳では無理だろう。 ピサには行きたいな。 アルプスの山は是非、自分の足で越えたいものだ。・・ 』

学生時代、宏は自転車一人旅の趣味を持っていた。九州や北海道を隅から隅まで一筆書きで回った。 大阪万博のあったころで、北海道からの帰りに申し訳程度に立ち寄った写真もある。 当時はカラー写真はポピュラーではなくて、全て白黒。

田舎に帰省した時に、こっそりと倉の二階に上がり込み、その頃の写真集を取り出しては青春時代を思い出していた。 そんなに好きだった自転車旅行もサラリーマンになってからというもの、その機会は完全に封じられていた。 何度かユーロッパ縦断の夢を実現しようと試みたことはあったが、駄目であった。 24才という若さで結婚し、娘二人はすでに高校生と大学生だ。 このヨーロッパ自転車縦断の夢は、かなえられない夢のまま終わろうとしていた。

そんな普通のサラリーマン生活が20年以上続いたある日、彼の会社では新たに”チャージ(リフレッシュ)休暇制度”が導入され、今年宏は丸々1か月の休みが貰えることになった。 会社にこの制度が導入された以降の3年間、夢をふくらませる一方で、宏は悩み続けて来た。

『この歳で果たして自転車旅行が可能であろうか・・?』 途中で挫折して帰ってくるみじめな自分の姿が頭から離れない。 足を滑らせて崖から転落するシーンが脳裏をよぎる。 交通事故の心配。言葉の問題、・・  十二指腸潰瘍になったのは厳しい仕事のせいばかりではないと、宏には分かっていた。

悩み続けてはいたが、ついに5月のゴールデンウィーク前にある日の夕方、彼は折り畳み式の自転車を買い込んだ。 そして、ちょっと恥ずかしそうに 近所を乗って回ってみた。 

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