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2009年4月23日 (木)

8)、野宿( 砲台の跡?)

右手向こうの方にコンクリートの崩れかけた小さな建物がチラッと見えた。『まさかそんな好都合なことが、』と思いつつ通り過ぎようとしていた。そのまま100mも進んだであろうか、宏は急にブレーキをかけた。 『泊まるところが必要なのだ。可能性は全てチェックすべし!』 引き返して草むらの中を自転車を押しながら、建物の方向に進む。

ちょっと泊まれそうにないほど中はゴミ箱状態であった。『無理だな。』 そう思いつつ建物を出る。 周りには小さな低い丘がいくつかあった。何の気なしに近くの丘に登ってみた。  くぼみに隠れるように別の建物がある。 がっしりとした”かまぼこ状の”かなり大きな建物で、外壁には錆びた鉄製のはしごが残っている。

どうやら第二次大戦時の建物のようだ。ドイツ軍が残したものだろう。更に近づいて見た。  縦横1メートル位の四角い穴が横っ腹に開いており、出入り可能である。 穴を覗いてみる。 入ってみる。

2つ、3つ空き缶が転がっており、焚き火の跡があるくらいで、中は比較的きれいだ。外壁の厚さは1メートル位はあろうか。 出入り出来るところは1箇所だけ。多分他は封鎖されているのであろう。 床は土、・・・

『先ほどのゴミ箱建物の中に長い板が2枚あった。あれを運んで来よう。』  既に宏は8割方”野宿”に腹を固めている。 一旦穴から這い出した宏は、自分と同種の珍入者発生確立を計算しつつ、雨に濡れた草原を歩き回った。 既に9時近い。 どんよりとした雲は辺り一面を覆い、先ほどからの小雨は依然として降り続いている。

『人影はゼロ』  宏はおもむろに長くて重い木の板を運び込んだ。 雨よけに使っていたビニールを板の上に広げ、その上に寝袋を広げる。 自転車も建物内に入れ、外からは見えない位置に立て掛けた。  板を運び込もうとした時、重い板が太股の上に落ち、今も痛みがある。 『骨にひびが入っていなければいいが、』と、その箇所をマッサージした。

建物内は既に足元が見えないほど暗くなっていた。懐中電灯を取り出し、天井や周囲を照らしてみる。 さそり・戦死者の亡霊・、と妄想が起きる。 宏は『 やばい!』と想い、直ぐその想念を打ち消した。  『 内部探検は明日だ!』 頭の切り替えは早い。 チョコレートを3かけら食べて、あっという間に寝入ってしまった。

次の日は5時前に目が覚めた。 幸い雨音はせず、昨夜の寝る前よりは明るい。 宏は寝袋を抜け出し海岸線を歩いた。 何千羽という海鳥が防波堤で羽を休めている。 宏が近付くにつれ、ざわざわと海面に滑り降りていく。

沢山の石で造られた防波堤は黄緑色の海草の衣をまとい、禅寺の"古石"のように見えた。 石の隙間の貝殻のかけらや透明感のある丸い小さな石をいくつか拾い、それを彼は旅の記念とした。 さわやかな風の朝であった。 妙に暖かいコーヒーを飲みたくなった。

昨夜の打撲箇所にはまだ痛みが残っていた。が、出発前に一応建物内部の探検はやっておくことにした。 天井が低いのは、どうやら土で床を埋めたためのようである。 土の下に何があるのか想像もつかない。 左手奥に四部屋あって、感じではベッドルームというところか。

右手奥には少し大きな部屋が3部屋あり、鉄はしごと何やら重い物を上下移動する装置の残骸がある。 『 大砲の弾でも上げ下ろししたのであろう。』 錆びた鉄の色が時の経過を感じさせる。

どの部屋にも光の漏れ入ってくる所はなく、懐中電灯の光の当たった処だけが、ぼんやりと浮かび上がってくる。  少し息苦しさを感じて、あわてて昨夜眠った部屋まで駆け戻り、数回大きく深呼吸した。

『 密閉に近い建物だ。何かの関係で酸素が薄いのかもしれない。長居は無用。』 宏はそう思い、出発することにした。 外はまだ雨がパラついていた。 自転車を押し、20,30歩進んだ所で振り返って見た。

『 ここで一夜を過ごしたんだ。』という証拠写真を撮るべきか、少し迷った。 「 止めた!」  何故とははっきりしないが、なんとなく写真を取るべきでははいように思えた。 堤防上の道路に戻り、北端の水門を渡り切って、北海を見る。

左手後方には緑の丘が見えるだけで、そこに凹みがあって宏が野宿した建物があるとは、とても想像出来ない。 海岸近くに昨夜草原から見えたような建物があった。何故か安心したような気持ちになってシャッターを押した。

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