« 第21話、”小波が指向特性に出現”(実験計画法の紹介)"Wave-oriented characteristics appears in" (introduction to design of experiments) | トップページ | 第23話、”鳥肌が立つ話”、(グラフ化・近似式化) »

2009年6月14日 (日)

第22話、”HID光源は、ロシア人形マトリョーショカ?”

HID光源は放電現象を活用した光源なので、その光っている部分の形状は明確な境界を持っておらず、"強烈な光を放つ雲"みたいなものです。

自動車用ヘッドランプに用いられている HID の外径は、1.5φ x 5mm程度で、ハロゲン電球のフィラメントコイルに概略寸法が合わせてあります。バルブは2重管構造であり、4φ程度の内管(楕円体)を、9外の外管(円筒)で包んであるというものです。

1)、放電現象が起きている内管の中では、管径が小さいにもかかわらず、"熱による対流現象"も起きています。そのため、光源としては、細い円柱が少し上に曲がった、弓なり形状(繭型:まゆがた)をしています。

2)、それに加えて、内管壁・外管壁のガラス管反射が加わって疑似光源が出来ている事 も さることながら、

3)、茶褐色のハロゲン沈着物が内管の下方に発生するという現象や、

4)、弓なり形状の中心付近は青白い(温度が高い)光色、内管壁に近くなるに従って赤っぽい(温度の低い)光色が出てしまうなど、

配光シミュレーションソフト(考える道具)を造る立場からは、まことにやっかいな光源でした。「雲をつかむような話」という表現がありますが、まさに、その言葉通りの研究テーマだったのです。 結局、当時のプロジェクトチームが採用した解決策は、以下のような方法でした。

1、反射光像を上面視と側面視とで測る。("写真を撮る如くに"強度分布を細かく計測する。) ・・・これは当然の一歩。

2、その分布に合うように13層の被服をかぶせ、上面視でも側面視でも、実測データとほぼ一致するような光源モデルを、コンピュータ内部に造る。・・・("ロシア人形型"という新案。)

3、ある方向への強度分布は、その方向から見た時の分布を瞬時に計算で求める。・・・("写真方式"という新案。)

3番の"瞬時に計算する"工夫には、『山登り法・山下り法』というプログラム上の工夫など、プログラマーに取っては(ゲームソフトを開発するような)面白い工夫もありましたが、造形的な面白さは何と言っても、2番の『 ロシア人形"マトリョーショカモデル" 』でした。

人形の中に、一回り小さな人形が、その中に更に小さな人形が、、という"あれ"です。あれをヒントにして、光源モデルを組み立てたことでした。そして、分布を求める計算のルールとして、『より小さい人形から出て来た光線は、それよりも大きな人形の外皮を通り抜けられるのだ。』 を 設けたのです。

この突飛な発想によって、世界最高のHID光源モデルが出来上がりました。あたかも写真を撮る如くに という意味で、"写真方式"という名称で(社内には)浸透しています。

後日談ですが、米国SAEショウの論文発表の会場で、演台に立った Kawaguchi 君が、ラインビームヘッドランプの開発に使用した"光源モデル"を説明した時のことです。100名以上の満席会場内、誰もがチンプンカンプン? という無反応の表情でした。

そこで、Kawaguchi 君は おもむろにポケットから ロシア人形 を取り出し、『我々はこの計算システムを、マトリョーショカ と呼んでいます(英語)』としゃべりながら、人形の中から人形を、更にその中から人形を、取り出して見せたのです。その途端に会場内は拍手喝采に包まれたそうでした。

見えないものを人に説明したり、新しい概念を他の人に伝えるのは難しいことです。理屈では仲々受け入れてはもらえないのですが、相手の知っている知識に働きかけると、意外に"すんなり"受け入れられる ということですね。

国境を越えて(言葉の壁を越えて)思想を伝えられた好例 として、参考にしてもらえるなら幸いです。

-------------------------------

参考 : このHIDモデルを作成したのは、1997年頃でした。当時のコンピュータ性能は 現在(2009年)のものと較べ、数千分の1 の性能であり、光源各部の色の違いまで組み込むことは、実用的ではありませんでした。"十二単(12ひとえ)"の如くに、13層のそれぞれに[ 温度と光強度 ]に合わせて、色を付けるというプログラム変更も可能です。

|

« 第21話、”小波が指向特性に出現”(実験計画法の紹介)"Wave-oriented characteristics appears in" (introduction to design of experiments) | トップページ | 第23話、”鳥肌が立つ話”、(グラフ化・近似式化) »

Light 光技術の話・・21-40・「灯具内で光が曲がってる?「演色性・立体角・疑似光源」」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 第22話、”HID光源は、ロシア人形マトリョーショカ?”:

« 第21話、”小波が指向特性に出現”(実験計画法の紹介)"Wave-oriented characteristics appears in" (introduction to design of experiments) | トップページ | 第23話、”鳥肌が立つ話”、(グラフ化・近似式化) »