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2009年6月 2日 (火)

32)、広島の田舎から羽田へ 今度は娘がスペイン一人旅

『 親孝行にはなった。と思っている。但し、今回の帰省では父親の相手は、あまり出来なかった。相当弱っているようにも見受けられた。
ある日父は思い出したかのように、奥の方から土地の権利書や刀剣類の届出書類を取り出して来て「急な時に宏が困ってはいけないから」と言いつつ、説明してくれた。更に、実際の刀剣類の手入れ方法までやって見せてくれた。
 日本男児、父親のすることを興味深く見守ってはいたが、何かさみしい物を宏は感じ取っていた。

 今は次女を連れて、帰りの飛行機の中である。
「乗客の皆様、機長です。左手方向に富士山が見えます。ただ今、静岡県上空を飛んでおります。・・、」 丸顔の優しいスチュアーデスが手招きして、
『窓から見てごらんなさい』とジェスチャーしている。

 娘と一緒に、そのスチュアーデスの居る窓まで近付いて行き、覗き込んで見た。
記録的に雨の降らない空夏だった。雲もほとんど無く、海岸線がクッキリと見える。
ローマブ~リュッセル間で見た海岸線ほどではなかったが、それなりに美しい。
その海岸の向こうに小さな富士山が見えた。
少しだけ雲のかさをかぶっている箱庭の情景であった。
 その箱庭は静かにゆっくりと、時計回りに回転していった。 まもなく羽田である。

長女がスペイン旅行に出発

 2日遅れで 長女が広島から帰って来た。9月にスペインに行くための資金造りであろう、それから毎日、アルバイトに余念がない。田舎でも「やめておきなさい、娘一人でなんて」と、相当言われたらしい。
妻も大反対である。しかし宏は、一人静かに応援している。
心配ではあるが、反対出来る訳はない。
『蛙の子は蛙だ。アメリカに1年間行ってて上手くやってきたんだ。やれる自信があるのだろう。なんとかするだろう。』 宏はそう思って見ている。

「お父さん、ユースの会員にはなって行った方がいい?」
「その方がいいよ。安いだけが取り柄だけどね」
「私はあまり利用しないつもりだけど、分かった。どこに行ったらいいの?」
「地球の歩き方にでも書いてあるだろ」
・・・「スペイン観光局には行ったのか?」
「何、それ。領事館にあるの?それとも大使館?」
「旅行者のために、各国が日本に開いている旅行案内所だ。青山辺りにあるはずだよ」
 「ありがと!」

 高校生・大学生ともなると、親父はけむたがられて話かけてもくれないんだそうだが、その点では宏の家庭は一風変わっている。宏が親らしくないのかも知れない。
「お父さんはすごいよ。若者が自転車旅行するくらいは珍しくないけど、その歳でねえ。感心。感心。」
誉められているのか、からかわれているのか、まるでお兄さん扱いだ。
母親に対しても同じで、こちらはお姉さん扱い。
一緒に歩いていると、友達から「あなた、この間、あそこを二人で歩いてたでしょう。あれ、従姉妹? お姉さん?」 若く見られるのだから妻は結構喜んでいる。
しかし、父親は兄さん扱いで喜んでいいものかどうか、少々複雑な気持ちだ。

「そろそろ荷物を準備しておいた方がいいんじゃないか?」
「そうしよッか。あのリュック何処にある?」
「えーと確かここにしまって置いたはずだが、、久美子(妻)!俺のリュックは何処だ?」 押入れの中を、家族総出で引っかき回している。

翌々日の朝5時前に台所でゴトゴトと音がし始めた。妻が長女の朝食の準備を始めたのであろう。昨夜は最後の手伝いをしてやり、早めに床に就いていた。
 まだ出発には時間がある。少しウトウトした。

 急に玄関口で、げた箱を開ける音がする。あわててパジャマ姿で見送った。
クタクタのジーパンに安っぽいヨレヨレの服を羽織り、宏のリュックを背にしている。
そこにふっくらとした丸顔がなければ、勇ましい男の子の"いでたち"と見紛う。
「気をつけて行きなさい」
「アディオス(じゃあまたね)」

 その後で次女が起きて来て、泣きべそをかいている。
何か渡す物があったらしい。
「あれほど頼んでいたのに、母さんどうして起こしてくれなかったの」
「もう渡したと思ってたわよ。よく寝てたから、起しちゃ悪いと思ったわよ」
 妻と次女との口げんかが、しばらく続いていた。

 出発以降の家族の会話 は長女の話ばかりだ。
「無事に飛行機に乗れたかしら」
「まだ成田だろう。そろそろ搭乗かな」
・・・
「今、どの辺りを飛んでるかしら」
「そうだな、マレーシア辺りじゃないかな。そこで乗り換えるんだろう」
 ・・・
 宏と違い、長女には時間がある。あちらこちらに連絡を取っていたが、一番安い南回りの格安航空券を手に入れた模様だ。
「お父さんはいくらだった?」
「14万と3千円」
「ふふふ、勝ったね。私は9万と5千円」
「南回りだと時間がかかるだろう。乗り換えもあるし、父さんは自転車が行方不明になっちゃ困るんでね。」
「そうだったんだ~。マレーシアで行きは4時間、帰りは16時間も待ち合せ時間があるんだ。降りようか」
「16時間もあれば、クアラルンプールで市内観光が出来るだろうね。だけど空港を出たら1万円余分にかかるんじゃないのか」
「え~、そうなの?」
「父さんの場合はそうだった。よく調べといた方がいいよ」
「わかった」 ・・・

 「向こうに着いたらすぐ電話かけるからね父さんはハガキ一枚しか送って来なかったけど、私は出すからね。安心して待っててね。」
 そう宣言して出て行けば、期待して待つのが人情だ。
しかし待てど暮らせど、着いたという電話がかかってこない。
5日経っても、1週間経っても、電話どころか絵ハガキ さえも届かない。

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