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2009年12月27日 (日)

11)、ジプシー風の女性と、Gypsy like woman I met on the train.

 アイセル湖北端を抜け出て10キロほど進んだ所に小さな港町があった。ハーリンゲンの港である。 熱いコーヒーとトーストにあり付いた宏は、その駅から電車に乗ることにした。旅の北限の町。と同時にオランダでの最後の町となる。 少なからずの達成感はあった。いよいよ南下だ。
 宏の計画は、五段階に分かれていた。 第一は、今終えたベルギーからアイセル湖北端までの、北海沿いに走る旅。 第二は、ライン川沿いにスイス国境のバーゼルまで、ドイツ国内縦走の旅。 第三は、スイス国内のアルプス越え。 第四は、イタリアのピサの斜塔までの旅。第五は、「おまけ」というか、ゆとりとしてローマ辺りで時間調整。
 安い航空券の関係から、6月23日夜のローマ宿泊は絶対であった。その他、一切の時間的制約は排除してある。
 宏は保険嫌いであった。ただ、日本から持ち込む自転車の盗難は心配していた。『自転車を盗まれると、全ての計画が狂う』。このたった一つの理由から28日間の保険に加入した。成田到着の25日は適用外。計算を誤ったかもしれない。
 「神は気まぐれ」は、宏の口癖である。 この辺りを大自然という神はどう審判なさるのか。 ともあれ、第一段階は無事終了。 第二段階は今、始った。 宏はドイツ国境の街エメリッヒ行きの切符を手にしている。 車中では装飾品を造って売り歩くというジプシー風の若い女性と、隣り合わせに座った。
「どこに住んでいるんですか?」
「オランダの北の方。ドイツ国境に近い辺り」
「装飾品はどうやって手に入れるんです?」 「父が造るのよ。父が出かける時は私が造る」
「そー。じゃあお父さんが居ないときは、君が社長さんなんだ」 「そんなところよ。フフフ」
「いつもあちこち売り歩くのですか? 楽しそうですね」
「それなりにね、楽しんでる」
 彼女は手提げ袋からタバコの包みを取り出す。まだ紙にくるんでない千切りタバコであり、それを器用に紙巻きタバコに仕上げて吸っている。巻き上げたあと、細い舌を出して唾でくっ付ける仕草がなんとなく色っぽい。 宏はもの珍しそうに見ている。
「あなたもやってみる?」
「トライしよう」。 すぐ乗って行く。 道具一式を受け取り仕掛ったが、仲々うまくいかない。 「こうやって巻くのよ」 彼女は巻いて見せ、舌を出そうとして一瞬動作を止め、宏を上目使い見た。「自分でやりなさい」と手渡す。
 吸ってみるとかなり軽いタバコであった。詰め方で強さが変わるらしい。 座席の回りに煙が立ちこめていく。
 しばらくして彼女はまた何か、白い粉薬のようなものを取り出した。「やってみる?」 これにはちょっと躊躇した。 「こうやるのよ」 彼女は手の甲羅に少し粉を乗せ、鼻の近くに持って行き、反対側の手で手首を叩いて、タイミングよく飛び跳ねた粉を吸い込んで見せた。「やってみなさい」 とさらに勧める。 しかたなくトライしてみた。 メンソレータムのようなきつい味と臭いがした。ハッカの刺激にも似ていると思った。
「私、時々占いもやるのよ。占ってあげようか」
「やってみて」  しばらく沈黙が続いたあと、おもむろに彼女は少しいたずらっぽく宏に向かって言う。
「あなたは雲を運んで来ているわね」 「雲?」 「そう、黒雲。雨に遭うわよ、きっと!」 「嬉しくないね、自転車乗りには」 「何回も遭いそうね」 「天気予報がそうなっていたのか?」 「違うわ。占いに出てる!」
 
窓の外はうす雲はかかっているものの、お陽さまが出ており、今日は降りそうにない。宏は話題を変えていった。 旅の中で数多くの女性にあったが、彼女は少し恐い女性のような印象が残った。

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