31)、ソレントからポンペイの町へ
「それからどうしたの。ソレントへ渡ったんでしょ?」 「そう、次の日の朝早く島を抜け出して、ソレントに回って行った。母さんたちも確か、ソレントには行ったんだよね」 「一晩泊ったのよ。カンツォーネをオペラ劇場で聞いた。すごい迫力だった!」
「僕は通過しただけ。でも、港は特徴があって、それなりに良かった。街は絶壁の上にあるんだよね。町から港まで、長い長い溝のような下り坂があって、ちょっと面白い雰囲気だった。」 ・・・、
カプリ島で散財してしまって、手持ちのお金(リラ)がほとんど無かった。万一のために持っていたドルで、ホテルの支払を済ませようとは試みたが、「あなたは昨日の交換レートを知っているか?」 「いいや、知らない( "リラ"と"ドル"の交換レートなんか、毎日宏が見ている訳はない)。」
「銀行で替えた方が賢明ですよ」と言われ、船賃だけをわずかに残してリラを使い切っていた。銀行を探し当てての"交換手続き"である。 「どこから来たのか?昨夜どこに泊まっていたのか、書きなさい」 「どこって、島から来た。ウーンと、カプリ島だ(すぐ名前を忘れてしまう)」
「どこに泊まっていましたか?」 どこでもいいじゃないか、と思うぐらいにしつこい。まるで尋問である。ホテル名は、白い猫という意味であったことは覚えている。もっとも白い猫の代わりに、朝食時に"黒猫"が足元を走っていたが、。「ホワイトキャットだ。ホワイトキャット」 「 ? 」 「有名なホテルがあるんだ。そこに泊まった。ウーンと、ガット(=キャット)・・、そうだ。ガトビアンコ」
真黒に日焼けして風体の良くない宏が、前夜泊まったホテル名を思い出すのに苦労しているのを見て、周囲の人達が笑っていた。お陰でこの"ガトビアンコ"というホテル名は一生忘れられない名前となった。
ソレントからナポリまでは約80キロある。海岸沿いの曲がりくねった道は、ゆっくりとした登り坂で、かなり高い絶壁の上の町"ソレント"は段々と低くなり、遠ざかって行く。海の色を含めて仲々の絶景であった。
ポンペイの遺跡 は、ソレントとナポリの中間地点にある。その日はよく晴れており、進行方向にベスビオ山が見えてきた。その山に向って走る。休息も十分であり、久しぶりに気持ちの良い汗が流れ出る。
遺跡内には自転車は持ち込めない。駐車場に自転車を預けて入場し、4時間ぐらい歩き回った。『 なるほどこれが、有名な(悲劇の)ポンペイの遺跡か 』 隅々まで見て回った。轍(わだち)の跡はあまりに深く、どうしてそんなになるまで修理しなかったのか不思議であった。野外劇場跡は敷石の色も鮮明で、古代世界の想いが漂っている。
ドイツの修学旅行生であろうか、男女混合で20人位がその野外劇場の石段に座り、ふざけ合っている。その内に、一人の女の子が皆に奨められる格好で中央に進み、プリマドンナを演じる。仲々の声量で、即興にしては上手過ぎた。皆にまじって宏も拍手を送った。
一瞬にして死の町と化したポンペイ! まだ発掘中の場所もあり、規模の大きさに唸らされる。発掘遺体も数体展示されており、生々しさは恐いくらいであった。
ポンペイからナポリまでは石畳の道が続き、渋滞がどんどん酷くなっていく。排気ガスも酷い。それでも宏は自転車で良かったと思う。あれがバスなら、まいってしまうだろう。自転車の旅は自由そのものであった。
翌朝、昼前にナポリを発ち、ローマのテルミニ駅には3時頃、到着した。駅の近くに宿をとり、半日ばかりのローマの休日を楽しむ。もちろん、有名なスペイン広場も、サンピエトロ広場も訪づれ、コロッセオ、フォロロマーノ、バラティーノの丘も見て回った。
規模の大きさには"びっくり"。 こんな文明が紀元前に起こることも驚異だが、その強大な帝国が滅んでしまう歴史の流れも不思議なものだ。
ローマの交通事情は良好であり、10時過ぎまで自転車で動き回って、ヨーロッパ最後の夜を満喫した。共和国広場では、あるレストラン専属のバンド演奏が行われていて、広場中央の噴水のほとりで、宏はいつまでも聞き入っていた。
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