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2009年12月30日 (水)

35)、5年~"若返る"薬

不老長寿の薬 を求める話は、聞いたことがあるでしょう?」 「何千年も前から、時の為政者が血眼になって捜し求めた話はよく聞く。それがどうかしたのか?」 「それがあるんですよ。不老長寿どころではなくて"若返りの薬"があるんですよ。私はそれを手に入れて飲みました」 「へー」

「薬とは言っても、口から飲む薬ではなくって、頭から飲む薬なんですが。それが証拠に私の頭は"真っ黒"でしょう」 「染めたんじゃないの?それともアデランスか?」 「違いますよ。染めてはいません。実は半年前までは、私の頭にも白髪が数十本有ったのですが、その薬を飲んだ途端に"真っ黒"になったんです。面白いでしょう」 「なになに、それ本当の話?」 「本当ですよ。あそこもビンビンの上向き45度。興味あります?」

という調子で宏は旅の話を広めていく。 「私もやってみよう」とは誰も言わないが、「さもありなん」とは同意してくれる。『それだけで5年は若返る。それでいいんだ。』 と思っての実践行動である。

会社からの帰り道、ある営業マンと一緒になる。 「こんばんは。お久しぶりですね」 「こんばんは。ホントだ。めずらしい」 「今も二階の電子営業におられるのですか?」 「そうです。来週の人事発令では50人くらいが退職していかれるようです。出向を含めると、もっとおられるみたいですね」

「挨拶に回って来られて、返す言葉がなくて、困ってしまいますよ」 「全くです」 「人の若さは気分次第で、大きく変わります。気の持ち方で、体力までも若返るものですが、会社もその気持ちの若さで、定年を延ばすとかなんとか、工夫してくれるといいんですが、、。」

「そう言えば、あなたは相変わらず元気ですね。何か秘訣でもあるんですか?」 「若返りの薬を飲みました」 「へえ、不老長寿の薬は聞いたことがありますが、若返りの薬ですか」 「薬とは言っても飲む薬ではなく、行動することです」 「行動ですか?」

「実は、チャージ休暇を利用して、丸々1か月、ヨーロッパを自転車で旅したんです。そしたら若返りました」 「そりゃあ素晴らしい!実は私も学生時代に自転車の趣味を持っていて、東京から九州の博多まで、3人で旅したことがあります」

「そうでしたか。趣味が合いますね」 「でも、段々と歳を取ってしまって、、。今49才ですが、子供が中学生の時に、一緒に自転車で千葉まで旅行したんです。自分の後ろを息子が付いて来ているんです。自分としては一生懸命ペダルを踏んで、かなり引き離したつもりで後ろを振り返ってみると、息子が平気な顔でついて来ているんです。あれはショックでした」

「ハハ。その若さに関してはかないませんよ。でも、持続力についての若さは別です」。 信号が青になり、横断歩道を渡りながら、「こちらの方はどうでした?」 と、手を口に当てて、パクパクさせておられる。

「現地で、場当たりで学習しました」 「へえ、」 「何とかなるものです。スイスの"山奥"からイタリアの"ド田舎"に入った時、いきなりイタリア語の世界です。英語もドイツ語も、全く通じません。まるで、未開の地に紛れ込んだみたいなものでした。

ちょうど自分の誕生日でしたので、何とか周囲の人達を巻き込んで、誕生日を祝ってもらえました」 「素晴らしい。まさに若さですね。」 駅の改札口が近付いて来る。「またいつか、武勇伝を聞かせて下さい」 「有難うございます。お恥ずかしい限りですが」 「それじゃ、また」 「失礼します」

押し売りはいけないが、天気の挨拶よりはマシだ、と宏は思う。 『 少しでも気持ちが若返る手助けとなれば、それで充分。』 そんな事を改めて思いながら、駅の階段を上って行った。

 僕の前には道はない(おしまい)    1994年 9月 30日  大山 宏

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