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2009年12月 3日 (木)

競り上がってくる雪山、白衣のシンプロン峠

 明けて 6月16日は、宏の誕生日。 別に もくろんだ訳ではなかったが、誕生日のその日にアルプスの峠越えを敢行する事となった。
朝は早めに出発しブリッグの町中には すぐに着いた。
『 まずは食糧調達!(峠までの40キロ区間では入手が難しそうだ)。この町しかない。』
小さなスーパーマーケットが見つかった。
トマト・バナナ・チョコレート・パンやハムなど買い込みをしたところに、「青年」が近付いて来た。 にこにこ笑いながら何やらフランスなまりの英語でしゃべりかけて来る。( 2,3度、繰り返してしゃべってくれた)。
「君と僕とは昨日、数回逢っている。」と言ってる。
そう言われれば昨日、追い越したり追い越されたりしたボンジュール青年がいた。彼曰く、「その後、何回もすれ違った。あの滝の所で、君は写真を撮っている最中だった。」
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 急に親しみが湧いてきた。

 その青年はリヨンを3日前に発ってレマン湖畔を経由し、その後宏と同じルートで走って来ていた。今日、明日かけてオーストリアに入る計画とのこと。
宏はこれからアルプスを越え、イタリアに向かう。 ここでお別れだ。
Photo  赤い車のボンネットの上にカメラをセットし、二人で記念写真を撮った。

ボンジュール青年と別れた後も、宏はまだ何かを探している。「水」である。  何処かに泉があるはず。』 それを探している。 そんな彼に、中年の男性が声をかけて来る。
「何かお探しですか?」
「水を手に入れたい。」と、空の容器を示す。
「そこの薬屋で手に入る。」と言う。
 宏は水を買うつもりはなかったが、連れて行かれた。
その男性は店員とベラベラしゃべってから、空っぽの容器を宏から受け取って、店員に手渡す。
店員は奥に入って行き「水」を詰めて戻ってきた。 有難い。無料!
 店員も中年男性も、これからアルプス越えに挑戦する日本人宏を、激励してくれた。
『 なあに40キロ先の高さ2千メートル。自転車を押してでも登ってやろう。』
宏はそう思っている。
 思っている通りに、押して登る展開になっていく。 46歳の山登り。

シンプロン峠へ

『 峠への道はツタの如く、切り立つ山にからみ付く。
  ガードレールのすぐそばは、恐怖心が先に立つ。
   遠くの雪山を見て走る。 刻々と姿を変えていく山波。
    風が吹き降りてくる。 恐い。道の中央寄りを走る。
     雪山連峰が段々と、小さな町を取り囲んでいく。』

心臓破りの坂が続いている。はるか向こうの山腹にまで、道路らしき白い構造物が認められる。急斜面であり、今にもズリ落ちそうなほど危なっかしい。 『 あんな所まで登っていくのか。』と、宏は少々不安になる。

振り返るとブリッグの町が眼下に広がり、町を囲むように山々が競い上がってきている。 路面を見つめながらペダルを踏み続けていても、ガードレールの向こう側の景色は目に入る。 針葉樹林を上から眺める景色、それが自転車とともに前方に滑って行く。 この異様な動きで、宏は一種の催眠状態を覚えた。

『 恐い 』と思うと、余計に足が縮こまってくる。 遠くの雪山を見て走ることにした。 強くはないが風が麓へ向かって吹いており、風の呼吸は、ガードレールのその向こうに自転車が吸い込まれそうな錯覚を、助長する。 宏は道路の中央を走ることにした。
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大きな山を回り込むと、昨日の三角帽子の雪山が現れた。 随分と大きく、圧倒されそうだ。 その山に向って道はス~ッと延びている。 周りの山間(やまあい)から、いく筋かの川が流れ出し、一本の「 小川 」となって、足元はるか下方を流れ下る。

相変わらず道は切り立つ斜面上にあり、眼下は一面の緑、上の方には雪山が広がっている。南斜面を走行中であり、太陽は真夏の暖かな日差しを送っている。 所々山を削って出来た小さな休憩場所には人影もなく、路端には野の草花が風に揺られている。

谷に架かる大きな橋の上までやって来た。 三角帽子の山は頭上にそびえている。吹き下ろす風は かなり強い。 近付いてみるとコンクリート製の頑丈な橋ではあったが、なにせ高い! 遠目には、その橋の支柱が乾素麺(そうめん)の如くに見えていた。

欄干から谷底を覗いてみる。 深い! マッチの先ほどの山小屋が川のほとりに見える。 雪解け水が爽やかに流れていた。

牛が数頭のどかに草を食んでいる。 三角帽子山の近くで、道は大きくUターンする。宏は少し早いが昼食を取ることとした。 荷物を軽くする意味もあって、バナナも桃も食べ尽くした。 1,2匹、蠅が飛び回っている。 ジュースを飲み、うまそうに宏は煙草をくゆらす。 車はほとんど走っていない。はるか下方に、もう使われていないらしい旧道が細く長く続いている。

トンネルの向こうから轟音が響いてくる。トラックだった。 また静寂に戻る。 相変わらず自転車を押して登っている。 トンネルといっても山肌に造られたコンクリート製の雪崩を防ぐ長い建造物で、谷側に窓が開いている。その窓から雪山が楽しめる。長~く連なるトンネルが、その窓を通して"白蛇"の如くに見える。

少し走る。が、ものの百メートル進まない内に、また自転車を降りて押している。空気も薄いのであろう、息切れして長続きしない。 『 なあに、今日中に着けばいい。』と、マイペースで押して歩く。風は冷たい。 『 あの山向こうが峠かな?』 それにしても長いトンネルだ。 残雪ラインにそろそろ達したようで、辺りは白く明るくなった。
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雪解け水が、トンネルの屋根を越えて流れ落ちている。 その場所でまた休憩を取る。 手足を洗う。顔を洗う。冷たい! 宏は容器に水を詰め替えようとした。 その小さな滝が小石を洗っている。玄武岩、磁鉄鉱、水晶のかけらなどが、流れる水と一緒になって太陽光をキラキラと照り返す。

峠まであと少し、あと少し。また自転車を押しながら進む。

遂に到着、シンプロン峠!

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感激の一瞬だ。 道路わきの広場に車が数台停まっており、峠の茶屋もあるが、人影はほとんどない。 2005メートルの標識看板を発見し、たまたま居合わせた人に記念写真を撮ってもらった。

両側にそそり立つ岩山は低い灌木と、苔(こけ)とも見える緑をまとい、その上を雪が覆う。 岩肌・土・緑 が絶妙の色バランスを保ちながら、雪の白さを強調している。

このダイナミックな景色の中にも自然の優しさは感じ取れた。 麓を出発してからここまでの半日、宏は人とほとんどしゃべらなかった。話すチャンスも無かったし、その必要もなかった。 大自然の中で、ずっとその変化を楽しんで来れた。

 太陽は光り輝き、峠は最高のドレスをまとって迎えてくれた様に、宏は感じた。 静かな達成感であった。

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