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2011年5月20日 (金)

ヤビツ峠・噛ませ犬・展示会 常務 チャージ休暇 示唆 枕と相談

 宏はヤビツ峠越えの山道を、猛スピードで引き返していた。川沿いの細い蛇行道。何度か対向車と鉢合わせになった。真昼間だが、ヘッドライトを点けたまま走った。・・・
 5日前の水曜日、宏はS重役・T重役に、メール報告をした。S重役からは、直ぐに返事が来た。『・・秦野に来てくれ・・』とのこと。しかし、T重役からの返事が来ないのであった。『何時も即御返事が頂けるお二人なのに、直属の上司であるT重役からの返事が届かない???』
『 何かご機嫌を損ねるような文章でもあったかな?』
読み返してみると、丁寧さに欠けるようにも思われた。段々と焦りが出て来た。・・
 翌日は技研に出社した。展示会資料にお詫び状を添えて階段を登って行った。 「重役居られます?」
秘書:「・・、長期のチャージ休暇中です。15日まで出社されません。」
宏は途方に暮れた。14日が、社内向けの展示会。
『・・展示会に出品出来ない。どうしよう?』
「今常務が来ておられますので、聞いてあげましょうか?」
「そうして。そうして。お願い!」
 3時間後、「とりあえず、社内展示会の出品OK。」の伝言があった。ほっとした。 伝えに来た秘書嬢に、立ち上がって深々と頭を下げた。
 ”常務”とは凄いものだ。その秘書嬢はその後何度も宏の居る所に現れ、展示会での設置場所・テーマ登録などなど、事務手続きを進めてくれた。
これまでが”嘘”のようであった。
 夜中の7時半、自宅に展示品が届けられた。切削加工品を”酒のさかな”に10時過ぎまで、届けてくれた職人(技術者)と苦労話に花を咲かせることが出来た。
 それが、先週末の出来事であった。そして今日は月曜日。メールで約束したT重役の御意見・ご意向を伺うべく、秦野工場を訪れた。2時間半かけて、相模原⇒宮が瀬⇒ヤビツ峠⇒秦野のルートを走った。
 
その同じ道を今、猛スピードで引き返している。
 1時間半で自宅に着いた。待機していた家内を乗せ、淵野辺駅に向かう。電車に飛び乗ったのが12時15分。 ジャスト1時に、江田駅着。『 間に合った!』 仕入れ先の営業マンは既に来ていた。T重役の示唆事項を伝える必要があったのである。
急転直下
 M課長に報告しない訳にはいかない。ありのままを伝え、改めての指示を仰ぐ。
M :「技術展では、特別展示室でなければならない。社内展示会も特別室だ。  試作品は複製品を3つ追加する。間に合わないようなら社内展示会は出品しないでいい。仕入先との打ち合わせには、自分(M)も出る。」
 宏は目を白黒 させていた。それまで、試作はさせてはくれるものの、出品に対しては無視・無関心であったM課長は電話をかけまくり、特別展示室への追加展示を展開された。 先週の秘書嬢の好意的な手配は、ひっくり返されてしまった。 後で宏は、秘書嬢に”わび(ことわり)”を入れた。
 「・・ギリギリ間に合いますね。」仕入先の2人は、頷きあいながらそう答えられた。『 これで、社内展示会にも出展できる。』と、内心宏は安堵した。
 明日は社内展示会の事前内覧会。まだまだ遣る事は残っていた。第一、ヘッドランプであるのに、点灯テストさえもまだであった。
LED を使った新奇のヘッドランプ。 ヒートシンク(:熱を取り除く黒いヒダが並んだ部品)と、LEDとを接続する部品がまだ取り着けてなかった。
 展示会前日で、血相を変えてバタバタやっている課員の顔色を伺いつつ、点灯出来る状態にしてもらった。幸い、それは明るい光 を放った。
 
ほっとした。
そんなことあり?
 次の日、通勤途上で、一瞬耳を疑った。
長津田駅で電車を乗り換える連絡通路で、胸ポケットの携帯電話が鳴った。仕入れ先営業マンからだった。
「 ・・、大山さん、落ち着いて聞いて下さい。不測の事態が起きました。本日昼までに納入する予定の展示台が、粉々になりました。昨日徹夜で作ったのですが、朝運んでいる時に階段から転げ落ちて、粉々になりました。至急作り直している最中ですが、何時までなら間に合いますか?」
 耳を疑うなといっても無理だ。「え?」の一言である。一呼吸置いて、
宏 : 「怪我は無かったの?」
仕入先:「本人は階段の途中で止まったのですが、試作した展示台は下まで転がり落ちたとの事。病院に行かせました。また電話します。」
 電車の中で、様々なことが頭をよぎった。『 なるようになる。』とも思った。
その後の電話で、粉々になったのは、私のもの以外に、もう一つあったそうで、徹夜明けのふらふらの足で、2つの試作品を運んでいたらしいとの事。
「無理しなくていい。作り直す必要はありません。少々不細工でもいいから、残っている部分だけでも、3時に届けて。徹夜明けの作業はもっと危険ですよ。」とは伝えたが、(仕入先の面子に関わるらしく)私の試作品は、切削加工のやり直し品が 3時に届いた。
誰が説明者?設置場所は何処?
 内覧会は既に始まっている。宏は、小耳にした”切れ切れの情報”を頼りに展示場所を探り出し、そこに展示すべく、階段を行き来した。
展示会場の責任者らしき人・周囲の人に仁義も切って(挨拶して)回った。
 長い待ち時間があった。夜の7時頃(そろそろ重役連が我々のブースに現われる頃)、展示場所に移動して(私の試作品の)説明予定者と見定めていた人と、詳細打ち合せすることになった。一緒に階段を登り、私は左に曲がろうとした。
「そっちじゃない。こっち。」と、彼が反対方向に曲がろうとする。ケゲン顔 の彼を、展示してある場所に連れて行った時、彼は突然、「ここなら、説明担当は私ではない。この説明文は返す。」と、言い出した。
 驚いた。たまたま現われた事務局員に確かめると、「設置場所はここです。その場所の責任者が説明することになっています。」と言う。
事務局本部に電話で確認してもらったが、やはりその通り。
「それじゃあ、仁義の切り方が違った。」 その場所の説明責任者を探し回った。
「私が説明するのは筋違いだ。Mに電話する。」と、彼が携帯電話をかける。彼があちこちに電話した後、「設置場所がやっぱり違う。説明責任者はA氏だ。」 と、なった。
 急遽の大移動であった。
移動が粗方済んだ頃に、私が説明するブース
から電話呼び出しがあった。階段を走り降りる。呼吸が整わないままに、説明に入った。
何を話しているのか自分でも定かでない説明になった。(皆さんケゲン顔!)。
 宏の試作品の番になった。宏が説明の手本を示すことになっていた。説明したが、これも意味不明の説明となったが、まあ、それはそれで済んだ。筆頭内覧者の常務が、ケゲン顔で、台を指差しながら、
常務:「その布切れはなんだ?しわしわじゃないか!」
宏 : 「はい。アイロンをかけて来ます。!」
( 前年度の展示会で使った”自宅から持って着た布”であった。)
 その場に居た全員が、事情を察したようだった。
 気の毒に思ったブース責任者Aが、気を利かせて綺麗なテーブルクロスを取りせてくれた。ブース責任者Aとその補助の女性とが、ダンボール箱で急ごしらえの”つるつるのテーブルクロス”で包み直してくれる。有り難く、宏は感謝した。
 
足は棒切れのようで、自分の足には思えなかった。
展示会当日
 夜明けの3時頃、枕と相談した。『 当日現われる、私と交替で説明してくれる人(B氏)にスムーズに説明内容を伝えるには、どうしたらいいか?・・』 『 そうだ!』 多少危険が伴うが、遣ってみる価値あり!と思った。それは、灯具を分解展示する方法であった。
『 今日は社内向けの展示会だ。説明者も聞く方も解り易いのが一番だ』。
 朝は早めに出かけた。展示会場には、今年2月に作成したサンプルが展示してある。そこに、昨年度の展示品を持ち込み分解した。
本体からファントムという名前のフード
をはずしただけで、大物部品は2つだ。似たものが二つ並んだ。
一方は完成品として、点灯可能なランプ。もう一つは分解してあり、”素手で触っても良い”とした。
『 この昨年度の灯具が人前に出るのは、これが最後の機会となる。今後、点灯されることもない。素手で存分に触られても満足であろう。』と、その灯具に言い聞かせた。
両隣の”カウリング”付きの展示灯具の合間で、”ちょっと貧弱に見えた”展示場所が、完成品と分解品という2セット並びになって、急に華やかになった
 説明員が段々と集まって来た。
「突然に来るS君が説明し易いよう、分解したものを並べることにしましたよ。」
と、皆には説明した。少し不満そうな顔も”なきにしもあらず”ではあった。しかし、苦言は出なかった。
 
S君も現われた。早速説明開始。 おとなしい性格ではあったが、頭が良い。飲み込みが早くて、細部に到るまで短時間で進んだ。
 上の階の特別展示室の方も、説明内容指導をする必要があった。こちちらの方もスムーズに済んだ。彼ら2人にこのブースはまかせ、私は、S君の所に戻る。
 S君と私は、1時間交替で説明することになっていた。最初は私である。まず、副社長が現われる。副社長は最大の関門であった。『一番良い説明方法は?』と考え、ある手を思い付いた。
「こんにちわ。環境にやさしい2000Lmヘッドランプです」と発した。
ほんまかいな。」との言葉を引き出せた。出だし成功!後は、スムーズに進んだ。「どうぞお手に取ってご覧下さい。」と、素手で差し出すと、小さなファントムフード部品を素直に”素手で”受け取られ興味深そうに眺められた。
この策も大成功で、機嫌良さそうに次の展示品に移って行かれた。
 S君の番になった。1時間説明して本人も自信を持てた様であった。私と交替した後も、S君はその場所を離れようとしなかった。そこに、社長が現われるチラッと、S君の方を見ると目が合った。社長への説明、トライしてみないか?」と、促してみると、以外にも、「やって見る。」との返事。
「じゃあよろしく。」と、晴れ舞台に押し出した。
 社長の周りでは十数名の方々が、1問1答に聞き耳を立てて居られる。S君がやる気になってくれたお陰で、私は目立たないで済んだ。
『 これで良いのだ。』と、思った。
この姿勢が、噛ませ犬には必要なのだ。』と、宏は思った。
大人のイソップ物語「噛ませ犬」 お終い
   大山宏

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